抗がん剤併用療法に関する報告書について

 趣旨
 がんの治療法として、学会等でも複数の抗がん剤の併用療法が有効であるとされています。しかしながら、薬事法で承認された抗がん剤であっても、がんの種類等によっては効能が承認されていないため、事実上、併用療法に用いることができない状況にある問題を解決するため、「抗がん剤併用療法に関する検討委員会」を設置し、併用療法に必要な抗がん剤の効能の取得を迅速に進めるものです。

 新しい仕組みについて

(1)        これまで、適応外使用に係る抗がん剤の承認申請については、有効性及び安全性に関するエビデンスの収集などを関係企業の自主的な努力に依存してきましたが、がん治療の社会的な重要性を考え、専門家・業界・行政が共同して参画する「抗がん剤併用療法に関する検討会」を設置したところです。

(2)        「抗がん剤併用療法に関する検討会」では、効能取得の承認申請促進のための計画を作成し、有効性・安全性等に関するエビデンスの収集を行い、報告書を作成します。

(3)        薬事・食品衛生審議会において、(2)で収集されたエビデンスの事前評価を行い、関係企業に承認申請を促すとともに、事前評価を経た承認申請を迅速(4ヶ月程度)に審査・承認する予定です。

(4)        承認を取得した抗がん剤については、医療機関等の協力を得ながら、重点的な市販後安全対策を実施します。

 

 

 公表する報告書

(1)       平成16年5月21日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、「抗がん剤併用療法に関する検討会」で収集した有効性及び安全性に関する情報(報告書)(資料1〜7)が、一定の根拠として適当であるとの評価を受けました。

(2)       平成16年8月27日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、資料8〜15の報告書について、一定の根拠として適当であるとの評価を受けました。

 

 ご注意

(1)       公表された報告書の抗がん剤の併用療法等に関する適応外の効能・効果等は承認されたものではなく、今後、関係企業からの効能・効果等の追加に関する一部変更承認申請がなされるべきものであることにご注意ください。

(2)       公表された報告書の抗がん剤の併用療法等を行う場合には、患者の安全確保を第一に考え、治療に伴い想定される死亡等の重篤な副作用の発生を可能な限り未然に防ぐための適正使用の確保が重要であることから、以下の点に注意するようお願いします。

(1)        国立・公立がんセンター、特定機能病院、地域がん拠点病院など緊急時に適正な処置が可能であって、がん化学療法に知識・経験を有する医師が在籍する医療機関で使用されるべきものであること。

(2)        抗がん剤併用療法等に係る抗がん剤の使用上の注意等を熟知し、治療内容や抗がん剤の使用に伴い発生しうる副作用等に関する患者への事前説明と同意の取得に努めるべきものであること。

(3)        重篤な副作用を知った場合には、遅滞なく関係企業又は厚生労働省に報告すべきものであり、また、抗がん剤併用療法等を実施した場合には、その症例の全数把握に努めるべきものであること。

 

 



(平成16年5月21日開催の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会)

資料1

  ドキソルビシン(乳癌AC療法)(PDF:50KB)

資料2

  パミドロネート(乳癌)(PDF:58KB)

資料3

  イホスファミド(骨・軟部腫瘍)(PDF:64KB)

資料4

  ドキソルビシン(骨・軟部腫瘍)(PDF:95KB)

資料5

  ドキソルビシン(小児)(PDF:67KB)

資料6

  エトポシド(小児)(PDF:111KB)

資料7

  イホスファミド(小児)(PDF:90KB)

(平成16年8月27日開催の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会)

資料8

 シスプラチン(悪性骨腫瘍)(PDF:61KB)new!!09/0309/03

資料9

 シスプラチン及びドキソルビシン(子宮体がんAP療法)(PDF:93KB)new!!09/0309/03

資料10

 シスプラチン(悪性リンパ腫)(PDF:251KB)new!!09/0309/03

資料11

 ビンクリスチン、ドキソルビシン及びデキサメタゾン(骨髄腫VAD療法)(PDF:27KB)new!!09/0309/03

資料12

 フルオロウラシル(頭頸部がん)(PDF:51KB)new!!09/0309/03

資料13

 プロカルバジン(脳腫瘍)(PDF:42KB)new!!09/0309/03

資料14

 ビンクリスチン(脳腫瘍)(PDF:41KB)new!!09/0309/03

資料15

 フルオロウラシル及びアイソボリン(大腸がん)(PDF:40KB)new!!09/0309/03

 

(照会先)

厚生労働省医政局研究開発振興課
03−3595−2430(ダイヤルイン)
厚生労働省医薬食品局審査管理課
03−3595−2431(ダイヤルイン)

 

抗がん剤報告書: ドキソルビシン(乳癌AC療法)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名

乳癌の術前、術後化学療法におけるドキソルビシン/シクロフォスファミド併用療法(AC療法)

未承認効能・
効果を含む医薬品名

手術可能乳癌における術前、あるいは術後化学療法

未承認用法・
用量を含む医薬品名

ドキソルビシン1回60mg/m23週間隔投与

予定効能・効果

乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)

予定用法・用量

ドキソルビシン        60   mg/m2

シクロフォスファミド  600  mg/m2

3週間隔、4コース投与

2.公知の取扱いについて

(1)        無作為化比較試験等の公表論文

1)        Fisher, B, Brown, AM, Dimitrov, NV, et al. Two months of doxorubicin-cyclophosphamide with and without interval reinduction therapy compared with 6 months of cyclophosphamide, methotrexate, and fluorouracil in positive-node breast cancer patients with tamoxifen-nonresponsive tumors: results from the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B-15. J Clin Oncol 1990; 8:1483

2)        Fisher, B, Anderson, S, Tan-Chiu, E, et al. Tamoxifen and chemotherapy for axillary node-negative, estrogen receptor-negative breast cancer: findings from National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B-23. J Clin Oncol 2001; 19:931

 

 

(2)        教科書

1)        Harris JR, Lippman ME, Morrow M, et al. Diseases of the breast, 2nd ed, Lippincott Williams & Wilkins, p599, 2000

2)        De Vita VT, Hellman S, and Rosenberg SA. Cancer Principles & practice of oncology, 6th ed, Lippincott Williams & Wilkins, p1692, 2001

 

 

(3)        peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス

1)        Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group. Polychemotherapy for early breast cancer: an overview of the randomised trials. Lancet 1998; 352:930

2)        Hortobagyi GN. Drug Therapy: Treatment of Breast Cancer. N Engl J Med 1998; 339:974

3)        Shapiro CL, Recht A. Drug Therapy: Side Effects of Adjuvant Treatment of Breast Cancer. N Engl J Med 2001; 344:1997

 

 

(4)        学会又は組織・機構の診療ガイドライン

1)        平成14年度厚生労働化学研究費補助金 医療技術評価総合研究事業研究報告書 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン作成に関する研究 主任研究者 高嶋 成光(乳癌学会乳癌診療ガイドライン原案)p142

2)        Goldhirsh A, Wood WC, Gelber RD, et al. Meeting highlights: updated international consensus panel on the treatment of primary breast cancer. J Clin Oncol 2003 ;21:3357

3)        National Cancer Institute. Breast Cancer: Treatment (PDQ) ; last updated 01/20/2004. http://www.nci.nih.gov/cancerinfo/pdq/treatment/breast/healthprofessional/#Section_123

4)        National Comprehensive Cancer Network Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. v.3.2003. http://www.nccn.org/physician_gls/f_guidelines.html

 

 

(5)        総評
 乳癌の術前あるいは術後化学療法におけるAC療法について、今までに報告された試験結果を考察し、以下の理由より、用法・用量がDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与のAC療法の有用性は認められると考えられる。また、米国の国立がん研究所(NCI)により作成された乳癌に関する診療ガイドライン、さらにその他の国際的に信頼できる学術雑誌に掲載された総説の記載内容等からみて、乳癌の術前あるいは術後化学療法におけるAC療法の有効性並びに安全性は医学・薬学上公知であると考えられる。

1)        癌の術後化学療法において、従来のCMF療法とAC療法(DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与)の第III相比較試験では、AC療法の無増悪生存期間、および生存期間はCMF療法と比較して有意な差は認められなかった((J Clin Oncol 8:1483, 1990、J Clin Oncol 19:931, 2001)。また、乳癌に対するAC療法(DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与)における術前と術後化学療法の比較試験では、術前療法の無増悪生存期間、および生存期間は術後療法と比較して有意な差は認められなかった(J Clin Oncol 16:2672,1998)。さらに、乳癌術後のAC療法におけるDOX、およびCPAの用法・用量を検討した比較試験では、1回投与量をDOX 60 mg/m2、およびCPA 600 mg/m2よりも高用量投与しても治療成績の改善は認められなかった(J Clin Oncol 21:976 ,2003、J Clin Oncol 15:1858, 1997、J Clin Oncol 17:3374,1999)。以上の結果より、乳癌術前、あるいは術後化学療法において、用法・用量がDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与のAC療法の有効性は認められると考えられる。

2)        用法・用量がDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与のAC療法の主な有害事象は、悪心・嘔吐、脱毛および白血球減少である。さらに、乳癌術後に対する化学療法の多施設共同試験であるNSAS B02の進捗状況より、用法・用量がDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与のAC療法は既に国内において使用経験があると考えられる。このため、化学療法に熟知した医師が骨髄抑制、および悪心・嘔吐に十分な注意を払い、AC療法を行うのであれば、安全性は担保できると考えられる。

 

 

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料

(a)       腋窩リンパ節転移陽性、タモキシフェンに感受性のない乳癌の術後化学療法におけるドキソルビシン/シクロフォスファミド療法とシクロフォスファミド/メソトレキセート/5-フルオロウラシル療法の第III相比較試験(NSABP B-15:J Clin Oncol 8:1483, 1990)

 米国の臨床試験グループであるNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP)により、59歳以下のstage II、タモキシフェン感受性なし、腋窩リンパ節転移陽性乳癌の術後にドキソルビシン(DOX)/シクロフォスファミド(CPA)併用(AC療法) x 4コース(AC群)、CPA/メソトレキセート(MTX)/5-フルオロウラシル(5-FU)併用(CMF療法) x 6コース(CMF群)、およびAC療法 x 4コース終了6ヶ月後に静脈投与CMF療法 x 3コース(ACCMF群)の第III相無作為化比較試験が行われた。本試験の主要評価項目は無増悪生存期間であった。
 本試験における無増悪生存期間は、局所、遠隔、乳房温存術例の同側乳房内再発、2次がん、あるいは死亡のいづれかを最初に認めるまでの期間と定義されていた。また、タモキシフェン(TAM)感受性なしの定義は、(1)49歳以下、(2)50から59歳で、エストロゲン受容体状況にかかわらず、プロゲステロン受容体の発現が10 fmol/mg未満(腫瘍組織のcytosolをenzyme immunoassayにより測定)のいずれかを満たす症例であった。
 それぞれの治療群の用法・用量は、AC療法:1回投与量はDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与)、CMF療法:CPA 1日投与量 100 mg/m2、経口、1から14日目まで投与、MTX 1回投与量 40 mg/m2、1および8日目投与、5-FU 1回投与量 600 mg/m2、1および8日目投与、これらの薬剤を28日間隔で投与した。また、AC
静脈投与CMF群におけるCMF療法の用法・用量はCPA 1回投与量750 mg/m2、1日目投与、MTX 1回投与量 40 mg/m2、1および8日目投与、5-FU 1回投与量 600 mg/m2、1および8日目投与、これらの薬剤を28日間隔で投与した。
 AC療法における次コース投与開始について、顆粒球数1,000/mm3以上、血小板 100,000/mm3以上を満たす、あるいは消化器毒性が治療開始に対して耐えられる程度まで回復した場合とし、これらの規準を満たさない場合には、投与開始を延期した。また、前コースにおいて、38.5
を越える発熱や顆粒球減少に伴う全身性感染症を認めた際には次コースのDOXおよびCPAの投与量を75%に減量した。CMF療法における次コースの投与開始、および投与量について、1日目に白血球数2,500/mm3未満、あるいは血小板 75,000/mm3未満の場合、白血球数2,500/mm3以上、および血小板 75,000/mm3以上に回復するまで投与を延期し、75%に減量して投与を開始し、さらに1日目に減量して投与開始後8日目の血球数3,500/mm3以上、および血小板 100,000/mm3以上であれば、100%の投与量にて治療を行う設定であった。また、8日目の白血球数2,500/mm3未満、あるいは血小板 75,000/mm3未満の場合は、8日目の投与を中止していた。さらに、消化器毒性を認めた場合、適宜投与量の減量を行った。乳房部分切除を受けた症例は術後に温存乳房に対する放射線照射を受けた(AC群では4コース終了後、CMF群では、1コース終了後より開始)。
 1984年10月から1988年10月までに2,338例が試験に登録され、20例が不適格で、2,318例のうち124例は追跡期間が短いために解析対象より除外された。患者背景について、AC群(734例)、CMF群(732例)、およびAC
静脈投与CMF群(728例)でそれぞれ、年齢は、49歳以下79%、81%、および77%、50〜59歳21%、19%、および23%、腋窩リンパ節転移個数は、1〜3個56%、56%、および56%、4〜9個30%、30、および30%、10個以上14%、14%、および15%、術式は、乳房部分切除27%、27%、および28%、乳房切除73%、73%、および72%、エストロゲン受容体(fmol)は、10未満46%、49%、および44%、10以上54%、51%、および56%、プロゲステロン受容体(fmol)は、10未満53%、55%、および53%、10以上47%、45%、および47%、腫瘍径は、2.0cm以下28%、29%、および28%、2.1〜5.0cm48%、44%、および46%、5.1cm以上8%、8%、および7%、不明16%、19%、および19%であった。
 観察期間が3年の時点で、3年無増悪生存率は、AC群62%、およびCMF群63%で両群に有意な差は認められなかった(p=0.5)。また、3年生存率は、AC群83%、およびCMF群82%で両群に有意な差は認められなかった(p=0.8)。なお、AC
CMF群の無増悪生存期間および生存期間は他の治療群と比較して有意には優れておらず、AC療法施行6ヶ月後に静脈投与でCMF療法を追加することの意義は認められなかった。
 すべての治療コースにおいて認められた有害事象の頻度について、AC群(1,492例、総コース数5,676、1例あたり平均3.8コース)、およびCMF群(739例、総コース数4,068、1例あたり平均5.5コース)でそれぞれ、白血球減少は、1,000〜1,999 /mm3 3.4%、および9.4%、1,000/mm3未満0.3%、および0.3%、血小板減少は、25,000〜49,999 /mm3 0%、および0.3%、25,000 /mm3未満0.1%、および0%、悪心・嘔吐は、悪心のみ、15.5%、および42.8%、持続時間が12時間以内の嘔吐34.4%、および25.2%、持続時間が12時間を超える嘔吐36.8%、および12.0%、耐えられない嘔吐4.7%、および1.6%、下痢は、1日4回を超えるもの2.6%、および4.5%、脱水を伴う下血0.3%、および0.3%、完全な脱毛は、69.5%、および15.1%、心血管系は、無症状0.2%、および0.1%、一過性0.1%、および0%、症候性0.1%、および0%、静脈炎は、表在性0.5%、および1.1%、深在性0.1%、および0.3%、血栓症0.1、および0.3%、感染症は、全身性は、全身性0.9%、および0.3%、敗血症1.5%、および0.9%、出血性膀胱炎は、軽度0.3%、および1.6%、重篤0%、および0.1%、体重増加は、5〜10% 10.6%、および27.9%、10〜20% 2.1%、および12.0%、20%を超える 1.7%、および2.3%、体重減少は、5〜10% 6.2%、および5.7%、10〜20% 1.4%、および2.3%、20%を超える 1.0%、および0.5%、発熱は、38〜40
5.1%、および3.2%、40を超える0.4%、および0.3%であった。
 AC x 4コース、およびCMF x 6コースを受けた際に認められる主な有害事象が認められるコース数は、100例あたり、それぞれ、悪心84、および211、嘔吐206、および83、下痢39、および65、粘膜炎54、および51、神経毒性4、および8、皮膚反応10、および11、発熱10、および7、感染16、および16であった。
 血液毒性、または消化器毒性による投与の延期について、AC群(1,492例、総コース5,676)、およびCMF群(739例、総コース4,068)において、それぞれ、投与延期を行ったコース数342(6.0%)、および408コース(10%)、投与延期を行った症例数233(15.6%)、および234(31.7%)であった。計画された薬剤の総投与量を受けた症例の割合、および月あたりのdose intensityは、それぞれ、AC群(558例)で、DOX 99.8%、および98.9%、CPA 99.7%、および98.9%、CMF群(術後に放射線照射を受けない乳房切除413例)は、CPA 87.6%、および87.0%、MTX 91.7%、および90.5%、5-FU 90.9%、および88.5%であった。

(b)       腋窩リンパ節転移陰性、エストロゲン受容体陰性の乳癌の術後化学療法におけるドキソルビシン/シクロフォスファミド療法±タモキシフェンとシクロフォスファミド/メソトレキセート/5-フルオロウラシル療法±タモキシフェンの第III相比較試験 (NASBP B-23: J Clin Oncol 19:931, 2001)

 米国の臨床試験グループであるNSABPにより、腋窩転移陰性、エスロトゲン受容体陰性の乳癌術後にDOX/CPA併用(AC療法)x 4コース (AC群)、AC療法x 4コース+TAM x 5年内服(AC/TAM群)、CPA/メソトレキセート(MTX)/5-フルオロウラシル(5-FU)併用(CMF療法) x 6コース(CMF群)、CMF療法x 6コース+TAM x 5年内服(CMF/TAM群)の第III相無作為化比較試験が行われた。本試験の主要評価項目は生存期間であった。本試験における無再発生存期間は、局所、遠隔、乳房温存術例の同側乳房内再発のいづれかを最初に認めるまでの期間と定義されていた。AC療法、およびCMF療法の用法・用量、投与の延期、投与量の減量規準はNSABP B-15と同一であった。TAMの非投与群は、プラセボの投与を受けた。また、乳房部分切除を受けた症例は術後に温存乳房に対する放射線照射を受けた(AC群では4コース終了後、CMF群では、1コース終了後より開始)。
 1991年5月から1998年12月までに2,008例が試験に登録され、34例が不適格で、26例が追跡不能例であった。患者背景について、AC群(501例)、AC/TAM群(502例)、CMF群(503例)、およびCMF/TAM群(502例)でそれぞれ、年齢は、49歳以下55%、55%、55%、および54%、50〜59歳28%、27%、30%、および30%、術式は、乳房部分切除 55%、55%、56%、および55%、乳房切除44%、45%、45%、および45%、エストロゲン受容体(fmol)は、10未満97%、98%、97%、および98%、10以上 3%、2%、3%、および2%、プロゲステロン受容体(fmol)は、10未満 86%、88%、87%、および88%、10以上14%、12%、13%、および12%、腫瘍径は、2.0cm以下54%、53%、55%、および58%、2.1〜4.0cm 35%、34%、36%、および33%、4.1cm以上4%、5%、5%、および6%、不明 5%、4%、6%、および7%であった。
 追跡期間の平均が65ヶ月の時点で、5年の無再発生存率は、AC群、AC/TAM群、CMF群、およびCMF/TAM群でそれぞれ、87%、87%、88%、および87%で有意な差は認められなかった(p=0.96)。さらに、AC
±TAM群、およびCMF±TAM群では、87%、および87%で有意な差は認められなかった(p=0.6)。5年の生存率は、AC群、AC/TAM群、CMF群、およびCMF/TAM群でそれぞれ、90%、90%、89%、および89%で有意な差は認められなかった(p=0.8)。さらに、AC±TAM群、およびCMF±TAM群では、90%、および90%で有意な差は認められなかった(p=0.8)。
 有害事象の程度について、grade 0/1/2/3/4/死亡例の頻度(%)はそれぞれ、AC群(495例):5/18/50/18/8/0、AC/TAM群(491例):3/18/52/16/11/1%未満、CMF群(499例):2/10/50/26/11/1、およびCMF/TAM群(498例):2/10/51/24/12/1%未満であった。重篤な有害事象の頻度(%)について、AC群、AC/TAM群、CMF群、およびCMF/TAM群でそれぞれ、顆粒球減少は、grade3(500-999 /mm):6/6/13/10、grade4(500/mm3未満):1/1/4/2、感染症は、grade3(重篤なもの):3/4/3/3、grade4(生命を脅かす):1/1/0/1、敗血症:5/7/5/6、悪心grade3(経口摂取不能):7/7/3/5、嘔吐は、grade3(24時間以内に6-10回):6/5/1/2、grade4(補液を必要とする):2/2/1/2、下痢は、grade3(24時間以内に7-9回):1/2/2/3、grade4(24時間以内に10回以上、あるいは補液を必要とする):0/1/1/1%未満、粘膜炎grade4:0/1%未満/1%未満/1%未満、脱毛は、82/81/43/40、心血管系(不整脈、心不全、虚血性疾患)は、grade3:7例/3例/1例/3例、grade4:1例/1例/3例/4例、死亡は、0例/1例/2例/1例であった。
 薬剤投与に関する記録を回収可能であった1,983例のうち、AC
±TAM群(986例)は、合計3,864コースの治療を受け(1例あたり平均3.9コース)、CMF±TAM群(997例)は、合計5,606コースの治療を受けた(1例あたり平均5.7コース)。化学療法を開始しなかった症例、および中止した症例は、それぞれ、AC±TAM群983例中10例および13例、CMF±TAM群990例中9例および24例であった。

4.本療法の位置づけについて

 

 手術可能な乳癌は局所性疾患と全身性疾患に分類され、局所性疾患は局所療法のみで治癒し、全身性疾患は微小転移を伴う。微小転移巣は、術後数ヶ月〜数年の間に明らかな病巣を形成し再発と診断される。手術時、既に微小転移のある可能性、すなわち再発リスクを予測する因子として、腋窩リンパ節の転移状況、年齢、腫瘍の浸潤径、組織型異型度(あるいは核異型度)、ホルモン受容体状況(エストロゲン/プロゲステロン受容体:ER/PgR)、HER2蛋白発現状況が挙げられている(Disease of the Breast, 2nd ed, Lippincott Williams & Wilkins, p489, 1999)。乳癌の術後に再発抑制を目的として行われる術後薬物療法は、個々の症例の予後・予測因子を考慮した上で、化学療法と内分泌療法を適切に組み合わせ施行されている。
 腋窩リンパ節の転移状況は最も重要な予後因子である。乳癌の術後薬物療法を検討する際には、まず腋窩リンパ節転移陰性と陽性の2つの群に分ける。腋窩リンパ節陰性例においては、予後因子によって再発のリスクの高い群が存在し、ホルモン受容体状況、腫瘍の浸潤径、組織学的異型度および年齢により、Minimal riskとAverage riskの2群に分類されている(J Clin Oncol 21:3357,2003)。現時点では、腋窩リンパ節転移陽性、および腋窩リンパ節転移陰性Average riskに対して術後薬物療法として原発巣のホルモン受容体状況に応じて化学療法と内分泌療法を組合わせた治療が行われている。また、最近では、手術可能乳癌の術前に化学療法を行い腫瘍の縮小をはかり、乳房温存術の向上を目指した術前化学療法も一般臨床として行われている(J Clin Oncol 21:2600,2003)。
 1970年代より腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対する無治療とCMF療法の第III相比較試験にてCMF療法による再発抑制効果が示されたことにより(N Engl J Med 332:901,1995)、CMF療法は乳癌の術後化学療法における標準的治療レジメンと位置づけられてきた。さらに1980年代には、anthracycline系抗がん剤が術後化学療法に導入された。
 AC療法とCMF療法の比較に関して、59歳以下のstage II、TAM感受性なし、腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対しするAC x 4コース群(734例)、CMF x 6コース群(732例)、およびAC x 4コース
静脈投与CMF x 3コース群(728例)の第III相比較試験が行われた(NSABP B-15:J Clin Oncol 8:1483, 1990)。この試験結果によれば、AC群とCMF群の再発率、および生存期間に有意な差は認められなかった(3年無増悪生存率:AC群62%、CMF群63%、p=0.5、および、3年生存率:AC群83%、CMF群82%、p=0.8)。
 さらに、手術可能、エストロゲン受容体(-)、腋窩リンパ節転移陰性乳癌に対して、AC x4コース
±TAM群(1,003例)とCMF x 6コース±TAM群(1,005例)の第III相試験が行われた(NASBP B-23: J Clin Oncol 19:931,2001)。両群で無増悪生存期間、および生存期間に有意な差は認められず、またTAMの追加効果も認められなかった(5年無再発生存率:AC群、AC/TAM群、CMF群、およびCMF/TAM群でそれぞれ、87%、87%、88%、および87%、p=0.96、および 5年生存率:AC群、AC/TAM群、CMF群、およびCMF/TAM群でそれぞれ、90%、90%、89%、および89%、p=0.8)。なお、ここで示したAC、およびCMF療法の用法・用量は、AC療法:1回投与量はDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与)、CMF療法:CPA 1日投与量 100 mg/m2、経口、1から14日目まで投与、MTX 1回投与量 40 mg/m2、1および8日目投与、5-FU 1回投与量 600 mg/m2、1および8日目投与、これらの薬剤を28日間隔である。
 1976年から89年に公表されたanthcycline系抗がん剤を含むレジメン(DOXやEpirubicin(EPI))とCMF療法の第III相試験(11試験、7,250例)のメタナリシスでは、anthracycline系抗がん剤を含むレジメンにより、5年無再発および生存率は、54.1%から57.3%および68.8%から71.5%へ改善されたことが示されている(Lancet 352:930, 1998)。
 現在、乳癌の術後化学療法において、最も広く用いられているanthracycline系抗がん剤を含むレジメンは、AC療法、CAF療法(CPA/DOX/5-FU)、およびCEF療法(CPA/EPI/5-FU)であるが(J Clin Oncol 21:3357,2003)、これらのレジメンをそれぞれ、直接比較検討した臨床試験は存在せず、どのレジメンが最も優れているのか不明である。
 また、T1-3、およびN0-1の乳癌に対して、4コースのAC療法(DOX 60 mg/m2、CPA 600 mg/m2、3週間隔投)を術前と術後に行う治療(1,523例)を比較した第III相試験では、術前化学療法は術後と比較して、無増悪生存期間(5年無増悪生存率:67%、および67%、p=0.9)および生存期間(5年生存率:80%、および80%、p=0.8)に有意な差は認められなかった(J Clin Oncol 16:2672,1998)。この試験結果より、現時点では、術前化学療法においてもAC療法は主要なレジメンの一つであると見なされている(J Clin Oncol 21:2600,2003)。
 以上、述べたように、乳癌の術前、および術後化学療法において、現時点ではAC療法は標準的治療レジメンの一つであり、また、術後化学療法におけるCMF療法との比較試験であるNSABP B-15とB-23の試験結果より、AC療法の標準的な用法・用量は、DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与であると考えられている。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等

 国内において、多施設共同の臨床試験である乳癌の術後化学療法における第III相試験が2001年10月より開始され、現在登録中である(財団法人パブリックヘルスリサーチセンター乳がん臨床研究支援事業 乳がん補助療法研究グループによるNSAS B02試験:http://www.csp.or.jp/)。この試験は、70歳以下の腋窩リンパ節転移陽性乳癌の術後化学療法において、AC療法(DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与)x 4コースPaclitaxel(PTX) x 4コース、AC療法 x 4コースDocetaxel (DTX) x 4コース、PTX x 8コース、DTX x 8コースの無作為化比較試験であり、主要評価項目は無病生存期間、予定症例数は各群300例、合計1,200例、登録期間は3年を予定している。全国の医療機関101施設が参加しており、現在登録中である。国内で、AC療法を用いた大規模な多施設共同試験が進行中であることより、乳癌の術後に対する用法・用量がDOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与であるAC療法は既に国内において使用経験があると考えられる。

6.本剤の安全性に関する評価

 

乳癌の術前、あるいは術後化学療法におけるAC療法(DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与x 4コース)の主な有害事象は、悪心・嘔吐、脱毛および白血球減少である。その他、発熱性好中球減少、感染、口内炎、下痢、出血性膀胱炎、肝機能異常、皮膚の色素沈着および爪の変色などである(J Clin Oncol 8:1483, 1990、J Clin Oncol 19:931, 2001、J Clin Oncol 16:2672,1998)。さらに、晩期に認められる有害事象は、心不全、無月経および治療関連白血病などである(N Engl J Med 344:1997,2001)。腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後を対象としたNSABP B-15試験では、4コースのAC療法を受けた1,492例のうち、血液あるいは消化器毒性のため、投与間隔を延長したのは、233例(15.6%)、治療の総5,676サイクル中322サイクル(6.0%)であった(J Clin Oncol 8:1483, 1990)。さらに、99%以上の症例で、DOXおよびCPAについて予定された量の薬剤を投与されていた。この試験結果より、DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2、3週間隔投与x 4コースのAC療法の治療の認容性が不良であるとは判断できない。化学療法に熟知した医師が、主な有害事象である骨髄抑制、および悪心・嘔吐に十分に注意して治療を行えば、AC療法の安全性は担保できると考えられる。

7.本剤の投与量の妥当性について

 

 乳癌の術後化学療法におけるDOXの用法・用量について、現在までにいくつかの検討が行われてきた。Stage II、腋窩リンパ節転移陽性乳癌術後に、4週間隔投与のCAF(CPA/DOX/5-FU)療法を、low dose (L)群 (CPA 300 mg/m2(1日目)/DOX 30 mg/m2(1日目)/5-FU 300 mg/m2(1、8日目)、28日間隔) x 6コース、moderate dose(M)群(CPA 400 mg/m2(1日目)/DOX 40 mg/m2(1日目)/5-FU 400 mg/m2(1、8日目)、28日間隔) x 6コース、high dose(H)群 (CPA 600 mg/m2(1日目)/DOX 60 mg/m2(1日目)/5-FU 600 mg/m2(1、8日目)、28日間隔) x 4コース、3群(1,572例)の第III相試験では、無増悪生存期間(5年無増悪生存率(L 56%、M 61%、H 66%、L vs H:p=0.0002、H vs M:p=0.11)、および生存期間(5年生存率(L 72%、M 77%、H 78%、L vs H:p=0.0034、H vs M:p=0.85)ともにlow doseと比較して、moderateおよびhigh doseが有意に優れており、またmoderate とhigh doseでは有意な差は認められなかった(N Engl J Med 330: 1253,1994、J Natl Cancer Inst 90:1205,1998)。この試験結果より、乳癌の術後化学療法の有効性に関して、DOXの総投与量に閾値が存在することが示された。
 AC療法におけるDOXの投与量について、stage II、腋窩リンパ節転移陽性乳癌術後に、AC療法x 4コース(3週間隔投与)を、CPAの1回投与量は600mg/m2とし、DOXの1投与量を60、75、および90 mg/m2の3群(3,121例)の第III相試験では、DOXの1回投与量を60 mg/m2以上増量しても、無増悪生存期間(5年無増悪生存率は、それぞれ、69%、66%、および67%、p=0.6)および生存期間(5年生存率は、それぞれ、79%、79%、77%、p=0.31)の延長は認められなかった(J Clin Oncol 21:976 ,2003)。
 AC療法におけるCPAの投与量について、stage II、腋窩リンパ節転移陽性乳癌の術後に、DOX 60 mg/m2、3週間隔x 4コースに加え、CPA 600 mg/m2、3週間隔 x 4コース(CPA600群)、CPA 1,200 mg/m2、3週間隔 x 2コース(CPA1,200群)、CPA 1,200 mg/m2、3週間隔 x 4コース(CPA2,400群)を併用する3群(2,305例)の第III相試験では、CPAの1回投与量を600 mg/m2以上増量しても、無増悪生存期間(5年無増悪生存率は、それぞれ、62%、60%、および64%、CPA 600 vs 1,200:p=0.48、CPA 600 vs 2,400:p=0.48)、および生存期間(5年生存率は、それぞれ、78%、77%、および77%、CPA 600 vs 1,200:p=0.98、CPA 600 vs 2,400:p=0.86)の延長は認められなかった(J Clin Oncol 15:1858, 1997)。さらに、DOX 60 mg/m2、3週間隔x 4コースに加えて、CPA 1,200 mg/m2 x 4コース、CPA 2,400 mg/m2 x 2コース、CPA 2,400 mg/m2 x 4コースを併用する3群(2,548例)の第III相試験が行われたが、CPA増量による治療効果の向上は認められなかった(J Clin Oncol 17:3374,1999)。なお、乳癌の術前、あるいは術後におけるAC療法について、4コースを越える治療コース数に関する比較試験は行われていない。
 以上の検討より、現時点では、乳癌の術後化学療法におけるAC療法の標準的な用法・用量は、DOX 60 mg/m2およびCPA 600 mg/m2 、3週間隔を4コースと判断される。

 

抗がん剤報告書:パミドロネート(乳癌)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名

乳癌の溶骨性骨転移に対するパミドロネート療法

未承認効能・
効果を含む医薬品名

パミドロネート(パミドロン酸二ナトリウム)商品名:アレディア

未承認用法・
用量を含む医薬品名

パミドロネート 1回 90 mg 4時間以上かけて点滴
4週間隔投与

予定効能・効果

乳癌の溶骨性骨転移(化学療法、内分泌療法、あるいは放射線療法と併用すること)

予定用法・用量

パミドロネート 1回 90 mg 4時間以上かけて点滴
4週間隔投与

2.公知の取扱いについて

(1)        無作為化比較試験等の公表論文

1) Hortobagyi GN, et al. Efficacy of pamidronate in reducing skeletal complications in patients with breast cancer and lytic bone metastasis. Protocol 19 Aredia Breast Cancer Study Group. N Engl J Med 335:1785, 1996

2) Hortobagyi GN, et al. Long-term prevention of skeletal complications of metastatic breast cancer with pamidronate. Protocol 19 Aredia Breast Cancer Study Group. J Clin Oncol 16:2038, 1998

3) Theriault RL, et al. Pamidronate reduces skeletal morbidity in women with advanced breast cancer and lytic bone lesion: a randomized, placebo-controlled trial. Protocol 18 Aredia Breast Cancer Study Group. J. Clin Oncol 17:846, 1999

 

(2)        教科書

1) Goldman L, et al. Cecil Textbook of Medicine. 22nd ed, WB Saunders, p1230, 2004

2) De Vita VT, Hellman S, and Rosenberg SA. Cancer Principles & practice of oncology, 6th ed, Lippincott Williams & Wilkins, p2717, 2001

3) Harris JR, et al. Disease of the Breast. 2nd ed, Lippincott Williams & Wiklins, p921, 1999

4) Abeloff MD, et al. Clinical Oncology. 2nd ed, Churchill Livingstone, p836, 2000

5) Twycross R, et al. Symptom Management in Advanced Cancer. 3rd ed, Radcliffe Medical Press, p17, 2003

6) Berger AM, et al. Principles and practice of palliative care and supportive oncology. 2nd ed, Lippincott Williams & Wiklins, p61, 1998

7) Price P, et al. Treatment of Cancer. 4th ed, Arnold, p49, 2002

 

(3)        peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス

1) Ross JR, et al. Systematic review of role of bisphosphonates on skeletal morbidity in matastatic cancer. BMJ 327:469, 2003

2) Plunkett TA, Rubens RD. Bisphosphonate therapy for patients with breast carcinoma. Cancer 97:854, 2003 (suppl 3)

3) Major PP, Cook R. Efficacy of bisphosphonates in the management of skeletal complications of bone metastases and selection of clinical endpoints. Am J Clin Oncol 25:10, 2002 (suppl 6)

 

(4)        学会又は組織・機構の診療ガイドライン

1) Hillner BE, et al. American Society of Clinical Oncology 2003 update on the role of bisphosphonates and bone health issues in women with breast cancer. J Clin Oncol 21:4042, 2003

2) National Cancer Institute. Breast Cancer: Treatment (PDQ) ; last updated 01/20/2004. http://www.nci.nih.gov/cancerinfo/pdq/treatment/breast/healthprofessional/#Section_123

3) NNational Comprehensive Cancer Network Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer. v.3.2003. http://www.nccn.org/physician_gls/f_guidelines.html

4) 平成14年度厚生労働化学研究費補助金 医療技術評価総合研究事業研究報告書 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン作成に関する研究 主任研究者 高嶋 成光(乳癌学会乳癌診療ガイドライン原案)p172

 

(5)        総評
 溶骨性骨転移を有する乳癌に対するパミドロネート療法について、今までに報告された試験結果を考察し、以下の理由より、用法・用量が1回 90 mg、4週間隔投与の有用性は認められる。また、世界的に最も標準的な内科学の教科書であるCecil内科学書、米国の国立がん研究所(NCI)により作成された乳癌に関する診療ガイドライン、米国臨床腫瘍学会(ASCO)による乳癌の骨転移に関する治療ガイドライン、さらにその他の国際的に信頼できる学術雑誌に掲載された総説の記載内容等からみて、溶骨性骨転移を有する乳癌に対してパミドロネート1回 90 mg、4週間隔投与の有効性並びに安全性は医学・薬学上公知であると考えられる。

1) 溶骨性骨転移を有する乳癌に対して、化学療法、あるいは内分泌療法の併用下で、パミドロネート1回 90 mg、4週間隔投与はプラセボと比較して、最初に骨合併症を発症するまでの期間の延長、骨合併症の頻度の減少、椎体以外の骨折の頻度の減少が認められたこと(N Engl J Med 335:1785, 1996、J Clin Oncol 16:2038, 1998、J Clin Oncol 17:846, 1999)。

2) 今まで報告された臨床試験の結果より、乳癌の溶骨性骨転移に対するパミドロネート90mg、4週間隔投与で認められる主な有害事象は、発熱、骨痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、悪心、貧血、血小板減少、腎障害、および低カルシウム血症であり、薬剤投与中の腎機能、血清カルシウム、および末梢血球数の変動に十分に留意すれば、安全性は担保できると考えられること(N Engl J Med 335:1785, 1996、J Clin Oncol 16:2038, 1998、J Clin Oncol 17:846, 1999)。
 ただし、2年を越えて治療を継続した際の安全性を示した報告が少ないため、パミドロネートを2年を越えて継続投与した際の安全性情報について収集をはかる必要があると考えられる。

 

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料

1)        Efficacy of pamidronate in reducing skeletal complications in patients with breast cancer and lytic bone metastasis. Protocol 19 Aredia Breast Cancer Study Group.

(N Engl J Med 335:1785, 1996、J Clin Oncol 16:2038, 1998)


 Ciba-Geigy Pharmaceuticals Division(現Novartis)によりgrant supportを受けた米国、カナダ、オーストラリア、およびニュージーランドが参加する多施設共同研究グループ(Aredia Breast Cancer Study Group)により、遠隔転移を有し、化学療法を受けている乳癌の女性症例で、直径が1cm以上の溶骨性骨転移を1つ以上有する症例、performance status (PS) 0〜3、3ヶ月以上の予後が期待できる症例を対象として、パミドロネートとプラセボの無作為化比較試験が行われた。本試験の主要評価項目は各治療群への割付から最初に骨合併症を発症するまでの期間であった。なお、骨合併症を有する症例(病的骨折、骨への放射線照射や外科的手術が必要、あるいは椎体の圧迫骨折による脊髄の圧迫)、登録前から試験登録までの2週間に血清カルシウム値(アルブミン補正)が12mg/dLを超える、腹水貯留、血清クレアチニンが2.5mg/dLを超える、総ビリルビンが2.5mg/dLを超える、NYHA(New York Heart Association)分類でIII、あるいはIVの心不全症状を有する症例、試験登録60日以内にビスフォスフォネート製剤の投与を受けた症例は試験の対象より除外された。さらに、骨痛に対する放射線治療、副腎皮質ホルモン、カルシトニン、あるいはplicamycinの投与を試験登録より2週間以上前に受けた症例は試験に適格とされた。試験登録より3ヶ月以内に放射線治療を受けた骨病巣は治療効果の評価の対象から除かれた。また、試験期間中の化学療法について、レジメンの変更や中止は可能と設定されていた。
 治療の内容について、パミドロネート群は、パミドロネート1回を5%ブドウ糖250mLに溶解し、2時間かけて点滴静脈投与、4週間隔、24コース投与した。一方、プラセボ群は、5%ブドウ糖250mL、2時間かけて点滴静脈投与、4週間隔、24コース投与した。それぞれの治療群において、3週間隔の化学療法が行われる場合には、それに合わせて3週間隔投与も可能であった。月1回の経過観察を行い、骨合併症(病的骨折、椎体の圧迫骨折による脊髄圧迫、病的骨折の治療あるいは予防のための手術の必要性、骨への放射線照射の必要性)を観察した。また、高カルシウム血症(アルブミン補正で12mg/dLを超える、あるいは正常値以上で治療を必要とするもの)についても評価された。治療開始より3、4、6、9、10、12、15、18、21、24ヶ月目に骨痛、鎮痛剤の使用量、PSを検討した。骨病変に対するレントゲン検査は、治療開始前、治療開始3、6、12、18、24ヶ月目に施行された。
 1991年1月から94年3月までに382例が試験に登録され、185例がパミドロネート群へ、197例がプラセボ群へ割り付けられた。プラセボ群のうち2例は評価可能な骨転移がなかったため、有効性の評価のみ除外された。

(患者背景)


                                パミドロネート群 (N=185)       プラセボ群 (N=195)


年齢                            57±12 歳                      56±12 歳

PS 0, 1                         121          (66%)             128                 (66%)

  2, 3                        64           (35%)             67                  (34%)

EstrogenおよびProgesterone受容体                                                   

 陽性 (両方あるいは一方)       116          (63%)             120                 (62%)

 その他                        69           (37%)             75                  (38%)

骨以外の転移部位                                                                  

 肺                            25                             30                  (15%)

 肝臓                          30           (16%)             29                  (15%)

 脳                            6            (3%)              1                   (1%)

 その他                        18           (10%)             27                  (14%)

 骨のみ                        115          (62%)             117                 (60%)

原発巣の診断から骨転移出現まで (年)                            4.3±4.6     3.8±4.5

骨転移出現から試験登録まで (年) 1.9±2.5                       1.6±1.7

1cm以上の骨病巣の個数                                                            

 1                             80           (43%)             82                  (42%)

 2                             69           (37%)             71                  (36%)

 3以上                        36           (19%)             42                  (22%)

試験登録3ヶ月前までの骨合併症                                                    

 放射線治療が必要              41           (22%)             57                  (29%)

 病的骨折                      30           (16%)             35                  (18%)


Pain Score*                                                                       

 0                             31           (17%)             27                  (14%)

 1-3                           74           (40%)             76                  (39%)

 4-9                           80           (43%)             92                  (47%)

前化学療法レジメン数                                                              

 0-1                           84           (45%)             80                  (41%)

 2-3                           87           (47%)             104                 (53%)

 4以上                        14           (8%)              11                  (6%)

前ホルモン療法レジメン数                                                          

 0-1                           90           (49%)             102                 (52%)

 2-3                           77           (42%)             77                  (39%)

 4以上                        18           (10%)             16                  (8%)


* 痛みの程度を0〜9の段階で示したもの                                             

                                                                                 

(治療期間)                                                                      


試験治療期間 (月)               パミドロネート群 (N=185)       プラセボ群 (N=197)


0 - <3                         14           (8%)              19                  (10%)

3 - <6                         22           (12%)             39                  (20%)

6 - <9                         32           (17%)             29                  (15%)

9 - <12                        18           (10%)             26                  (13%)

12以上                         99           (54%)             84                  (43%)


                                                                                 

(有効性と安全性の解析対象および試験中止の理由)                                  


                                パミドロネート群               プラセボ群


有効性解析対象                  185                            195

安全性および生存解析対象        185                            197

試験治療24ヶ月完了             47           (25%)             35                  (18%)

試験中止の理由                  140          (76%)             165                 (85%)

有害事象                        45           (24%)             45                  (23%)

治療効果を認めず                18           (10%)             36                  (19%)

試験に許容されない薬剤投与      5            (3%)              9                   (5%)

規定された経過観察スケジュールからの逸脱     4                 (2%)                5  (3%)

治療の拒否                      26           (14%)             28                  (14%)

臨床検査値異常                  0                              1                  

経過観察不能                    2            (1%)              4                   (2%)

薬剤投与に係わる問題            2            (1%)              6                   (3%)

死亡                            38           (20%)             31                  (16%)


 試験治療期間の中央値は、パミドロネート群13ヶ月、プラセボ群10.2ヶ月であった。パミドロネート群の総投与量の中央値は1,170mg(1回90mgで13コース)であり、うちPS 0,1(121例)の中央値は1,440mg (16コース)、PS 2,3(64例)は630mg (7コース)であった。
 骨合併症について、試験治療開始より最初の骨合併症を発症するまでの中央値は、パミドロネート群13.9ヶ月、およびプラセボ群7.0ヶ月であり、パミドロネート群が有意に優れていた(p
0.001)。

(治療開始からの24ヶ月の時点での骨合併症の件数/症例数)


                                パミドロネート群 (N=185)       プラセボ群 (N=197)


すべての骨合併症                387件 / 92例                  630件 / 136例      (p< 0.001)

椎体骨折                        103件 / 47例                  148件 / 51例       (p=0.868)

椎体以外の骨折                  148件 / 42例                  201件 / 74例       (p=0.001)

骨への放射線治療                105件 / 51例                  207例 / 88例       (p< 0.001)

骨への外科的手術                14件 / 9例                    28件 / 24例        (p=0.010)

脊髄圧迫                        4例                            7例               

高カルシウム血症                13件 / 13例                   39件 / 30例        (p=0.010)



 パミドロネート群はプラセボ群と比較して、骨合併症の頻度、椎体以外の骨折、骨への放射線治療や外科的切除の頻度、および高カルシウム血症の発症を有意に抑制していた。疼痛について、pain scoreの増悪を認めた症例の割合は、パミドロネート群41%、およびプラセボ群55%であり、パミドロネート群の方が有意に少なかった(p=0.015)。また、鎮痛剤の増量を必要とした症例の割合は、パミドロネート群26%、およびプラセボ群40%であった(p=0.011)。
 レントゲン上、骨病巣に治療効果が認められた症例の割合は、パミドロネート群34%、およびプラセボ群19%であり(p=0.002)、またレントゲン上変化が認められなかったものは、それぞれ、26%、および31%であった。
 有害事象、および死亡のために治療を中止した割合は、それぞれ、パミドロネート群35%、および20%で、またプラセボ群では、23%、および16%であった。両治療群の大半の有害事象の頻度、および重篤度に相違は認められなかったが、貧血、血小板減少、高リン血症、筋肉痛、関節痛、およびインフルエンザ様症状の頻度がパミドロネート群で少し高かった。さらに、パミドロネート群2例でパミドロネートに起因すると考えられる有害事象にて治療を中止した(糸球体腎炎の既往を有する症例が腎不全を発症1例、持続する低カルシウム血症1例)。なお、プラセボ群の1例で高カルシウム血症により治療を中止した。
 生存期間について、中央値は、パミドロネート群14.8ヶ月、およびプラセボ群14ヶ月(p=0.820)であり、両治療群の生存期間に有意な差は認められなかった。

2)        Pamidronate reduces skeletal morbidity in women with advanced breast cancer and lytic bone lesion: a randomized, placebo-controlled trial. Protocol 18 Aredia Breast Cancer Study Group.

(J. Clin Oncol 17:846, 1999)



 Aredia Breast Study Groupにより、2個以上の溶骨性骨転移を有する18歳以上の女性の乳癌症例で、安定した内分泌療法を受けている症例を対象として、パミドロネートとプラセボの無作為化比較試験が行われた。大きさが直径1cmを越える溶骨性病巣を少なくとも1個以上有し、試験登録前3ヶ月以内に放射線治療を受けていない症例は適格であった。また、溶骨性病巣を1個のみ有する場合は、少なくとも直径1cm以上の放射線治療歴のない病巣を有するか、骨以外の転移病巣を有する場合を適格とした。その他の適格条件は、PS 0〜3、試験登録3ヶ月以内に化学療法を受けていない症例、試験登録の2週間以内に骨合併症を発症していない症例、9ヶ月以上の予後が見込める症例、腎臓、肝臓、および心臓に著しい機能障害がない症例、であった。
 慢性的に副腎皮質ホルモンの投与を受けている症例は除外されたが、脊髄圧迫の急性、あるいは亜急性期に副腎皮質ホルモンを投与されている症例は適格とされた。試験登録前2週間以内にカルシトニン、またはmithramycinを投与された症例は除外されたが、試験中に高カルシウム血症を発症した際にこれらの薬剤を投与することは許されていた。また、試験登録60日以内にビスフォスフォネート製剤の投与を受けた症例は除外され、試験中は試験治療以外のビスフォスフォネート製剤の投与を禁止していた。試験期間中に内分泌療法の治療レジメンを変更することは許されており、また試験期間中に化学療法を開始することも許されていた。
 治療の内容について、パミドロネート群は、パミドロネート1回を5%ブドウ糖250mLに溶解し、2時間かけて点滴静脈投与、4週間隔、24コース投与した。一方、プラセボ群は、5%ブドウ糖250mL、2時間かけて点滴静脈投与、4週間隔、24コース投与した。盲検性を保持するためにそれぞれの薬剤は試験専属の薬剤師によって調合された。
 本試験は、II相に分かれており、1から12コースを評価した第I相では有効性と安全性を検討し、13から24コースを評価した第II相では安全性を検討し、24コースまで盲検化したまま薬剤投与は継続された。本試験の主要評価項目は、I相における各群の骨合併症の頻度であり、パミドロネートによる骨合併症の予防効果を検証することを目的としていた。
 本試験では、骨合併症を、高カルシウム血症(アルブミン補正で12mg/dLを超える)、病的骨折、骨への放射線照射や外科的手術が必要、あるいは椎体の圧迫骨折による脊髄の圧迫と定義としていた。
 治療開始より、骨痛、鎮痛剤の使用量、PSを毎月評価し、骨病変に対するレントゲン検査は、治療開始前、治療開始3、6、12、18、24ヶ月目に施行した。
 1990年12月から95年6月までに372例が試験に登録された(パミドロネート群182例、プラセボ群190例)。プラセボ群のうち1例は、骨転移を有しないため、治療を受けず、また有効性の評価から除外されたが、生存期間の評価は行われた。12、および24コースの治療を完了した症例の割合は、それぞれ、パミドロネート群(182例中)62%、および32%、プラセボ群(189例中)52%、および34%であった。

(患者背景)


                                パミドロネート群 (N=182)         プラセボ群 (N=189)


年齢                            60±12 歳                       62±11 歳

PS 0, 1                         144               (79%)          139        (74%)

  2, 3                        38                (21%)          50         (26%)

ホルモン受容体

 ER陽性、またはER不明/PgR陽性*                 141            (77%)      136       (72%)

 その他                        41                (23%)          53         (28%)

骨以外の転移部位                                                           

 肺                            22                (12%)          19         (10%)

 肝臓                          19                (10%)          14         (7%)

 脳                            3                 (2%)           2          (1%)

 その他                        23                (13%)          20         (11%)

 骨のみ                        121               (66%)          137        (72%)

前化学療法の有/無               93 (51%) / 89 (49%)              95 (50%)   / 94 (50%)

前内分泌療法レジメン数

 1                             67                (37%)          68         (36%)

 2 - 3                         107               (59%)          105        (55%)

 > 3                           8                 (5%)           16         (9%)

Pain Score**                                                               

 0                             27                (15%)          37         (20%)

 1-3                           81                (45%)          77         (41%)

 4、6、or 9                    74                (41%)          75         (40%)


* ER: Estrogen receptor、PgR: Progesterone Receptor
** 痛みの程度を0〜9の段階で示したもの


 観察期間の中央値は、パミドロネート群36.8ヶ月、プラセボ群37.1ヶ月であり、治療期間の中央値は、パミドロネート群17.4ヶ月、プラセボ群14.6ヶ月であった。試験登録前、各群の95%以上の症例でtamoxifenの投与を受けており、半数は前化学療法歴を有していた。治療開始時、各群で40%がtamoxifen、40%がmegestrol acetateの投与を受けていた。試験治療中、megestrol acetateはパミドロネート群52%、プラセボ群61%に投与され、fluorouracilは、それぞれ32%、および30%に投与された。試験治療中、各群の1/3の症例は同じ抗腫瘍治療レジメンを受け、1/3はレジメンを1回変更し、残りの1/3は2回以上のレジメン変更を行った。

(治療開始からの24ヶ月の時点での骨合併症の例数)


                                パミドロネート群 (N=182)         プラセボ群 (N=189)


すべての骨合併症                102例            (56%)          127例     (67%) (p=0.027)

椎体骨折                        50例             (28%)          58例      (31%) (p=0.496)

椎体以外の骨折                  66例             (36%)          75例      (40%) (p=0.498)

骨への放射線治療                56例             (31%)          76例      (40%) (p=0.058)

骨への外科的手術                13例             (7%)           20例      (11%) (p=0.245)

脊髄圧迫                        7例              (4%)           6例       (3%) (p=0.725)

高カルシウム血症                8例              (4%)           19例      (10%) (p=0.036)


 24コース施行後までの骨合併症の総数は、パミドロネート群475件、プラセボ群648件であり、骨合併症の内容について、すべての病的骨折、および高カルシウム血症の発症をパミドロネート群が有意に抑えていた。試験治療開始より最初に骨合併症を発症するまでの期間(中央値)は、パミドロネート群10.4ヶ月、プラセボ群6.9ヶ月で、パミドロネート群は最初の骨合併症発症までの期間を有意に延長した(p=0.049)。骨病変をレントゲンにて評価した症例はパミドロネート群の88%、プラセボ群の89%であり、そのうち、治療効果が認められたものは、パミドロネート群30%、およびプラセボ群24%であった(p=0.202)。骨痛のpain scoreについて、治療開始から24コース終了後のscoreの増加は、パミドロネート群+0.5、プラセボ群+1.6であり、パミドロネート群で骨痛の増悪の程度が少なかった(p=0.007)。鎮痛剤の使用量の増量もパミドロネート群で有意に少なかった(p<0.001)。
 有害事象、および死亡のために治療を中止した割合は、それぞれ、パミドロネート群20%、および19%で、またプラセボ群では、16%、および11%であった。パミドロネート群でプラセボ群より少なくとも10%以上高い頻度で認められた有害事象は嘔吐と倦怠感であり、また注射部位の皮膚反応がパミドロネート群で多く認められた(6% vs 0.5%)。さらに、パミドロネート群で重篤な有害事象が2例に認められた(初回治療より数日して発症した間質性肺炎1例、左眼に認められたアレルギー反応1例)。プラセボ群の1例でプラセボを投与後24時間以内に蜂窩織炎を発症し試験治療を中止した。
 生存期間中央値は、パミドロネート群23.2ヶ月、プラセボ群23.5ヶ月で両群の生存期間に有意な差は認められなかった(p=0.685)。

4.本療法の位置づけについて

 

 転移性乳癌において、骨転移は肺、肝臓と並んで多く認められ(Cancer Res 33: 179, 1973)、骨盤、椎体、長管骨などの加重骨に転移が認められる(Br J Cancer 55:61, 1987)。骨転移を来した乳癌に対しては、全身治療として内分泌療法や化学療法が行われ、また転移部位に対する局所療法として放射線治療や病的骨折に対する整形外科的手術が行われる。しかし、転移性乳癌は治癒不可能な疾患であるため、治療経過中に骨転移が進行し、転移部位の疼痛、病的骨折、椎体の圧迫骨折による脊髄圧迫症状、高カルシウム血症を来すため、転移性乳癌患者のQOL(Quality of life)を著しく損なう(Br J Cancer 77: 336, 1998)。
 パミドロネートは骨吸収抑制作用をもつビスフォスフォネート製剤で悪性腫瘍による高カルシウム血症に対して用いられており、国内では悪性腫瘍による高カルシウム血症の効能、1回30〜45mgを4時間以上かけて単回点滴静脈投与の用法・用量で1994年8月に承認されている薬剤である。
 ビスフォスフォネート製剤の骨吸収抑制作用より、悪性腫瘍の骨転移による疼痛の軽減や骨折などの合併症の頻度の軽減が期待され、悪性腫瘍の骨転移に対してビスフォスフォネート製剤とプラセボの無作為化比較試験が行われ、18試験のメタナリシスでは、6ヶ月以上投与されたビスフォスフォネート製剤はプラセボと比較して、病的骨折の頻度の減少(オッズ比(95%信頼区間):椎体0.69(0.57-0.84)、椎体以外0.65(0.54-0.79))、放射線治療の必要性の減少(0.67(0.57-0.79))、および高カルシウム血症の頻度の減少(0.54(0.36-0.81))が認められた。整形外科的手術の必要性の減少(0.70(0.46-1.05))、および骨折による脊髄圧迫(0.71(0.47-1.08))は認められなかったが、1年以上治療が継続された試験では整形外科的手術の必要性の減少(0.59(0.39-0.88)が認められた(BMJ 327:469, 2003)。今まで行われた臨床試験結果より、ビスフォスフォネート製剤は悪性腫瘍の骨転移による骨合併症(骨折による脊髄圧迫)の頻度を減少させ、またそれらの合併症が最初に起きるまでの期間を延長する効果を持つ薬剤として位置づけられている。なお、悪性腫瘍の骨転移に対してビスフォスフォネート製剤の生存期間延長の寄与は認められていない。
 パミドロネートでは、乳癌の骨転移に対する単剤の臨床試験が行われ、有用性が示唆された(Cancer 74: 2949, 1994)。さらに、乳癌の骨転移に対するパミドロネートの有用性を検証するために、少なくとも1つ以上の溶骨性骨転移を有する症例に対して、化学療法、あるいはホルモン療法併用下では、パミドロネートとプラセボの無作為化比較試験が行われた。それらの試験結果では、化学療法との併用下で、パミドロネート群はプラセボ群と比較して治療開始より最初の骨合併症の発症までの期間を延長し(13.9 vs 7ヶ月、p < 0.001)、骨合併症を抑制した(50 vs 70%、p<0.001、N Engl J Med 335:1785, 1996、J Clin Oncol 16:2038, 1998)、またホルモン療法との併用下では、最初の骨合併症の発症までの期間の延長(10.4 vs 6.9ヶ月、p=0.049)、および骨合併症の抑制(56 vs 67%、p=0.027、J Clin Oncol 17:846, 1999)が認められた。これらの臨床試験結果より乳癌の溶骨性骨転移に対するパミドロネートの有用性が示された。現時点では、単純レントゲン写真にて溶骨性変化、CTあるいはMRIにて骨破壊像を伴う乳癌の骨転移に対してパミドロネート1回90mg、4週間隔投与は骨合併症の予防に有用な薬剤であると位置づけられている(J Clin Oncol 18:1378, 2000、J Clin Oncol 21:4042, 2003)。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等

 現在までに、国内において乳癌の骨転移に対するパミドロネート1回90mg、4週間隔投与に関する論文は公表されていない。
 悪性腫瘍による高カルシウム血症に対するパミドロネート単回投与における用量検討試験が行われており、1回投与量15mg(14例)、30mg(36例)、45mg(32例)、60mg(21例)で認められた有害事象の件数は、それぞれ、発熱:0/4/4/2、血圧低下:0/1/0/0、不整脈:0/0/1/0、低カルシウム血症:1/3/7/4、腎機能低下:0/1/0/0、GOT/GPT上昇:0/0/1/1、クレアチニン上昇:0/0/0/1、血糖上昇:0/0/0/1、高カリウム血症:0/0/1/0、低リン血症:0/0/1/0、蛋白尿:0/0/1/0、および好酸球増多:0/0/2/0であり、有害事象と用量の間に明らかな相関は認められなかった(臨床医薬8:605, 1992)。

6.本剤の安全性に関する評価

 

 溶骨性骨転移を有する乳癌に対するパミドロネート 1回90mg、4週間隔投与の安全性について、化学療法併用下の症例を対象としたパミドロネート(185例)とプラセボ(195例)を12コース投与した比較試験(N Engl J Med 335:1785, 1996)では、パミドロネート群3例でパミドロネートに起因すると考えられる有害事象にて治療を中止した(低カルシウム血症1例、脱力、倦怠感、および呼吸困難1例、投与後の骨痛の増悪1例)。なお、この試験ではプラセボ群の有害事象による治療中止例は認められなかった。さらに、この試験で治療を24コースまで行った検討では、有害事象、および死亡のために治療を中止した割合は、それぞれ、パミドロネート群35%、および20%で、またプラセボ群では、23%、および16%であった。貧血、血小板減少、高リン血症、筋肉痛、関節痛、およびインフルエンザ様症状の頻度がパミドロネート群で少し高かった(J Clin Oncol 16:2038, 1998)。さらに、パミドロネート群2例でパミドロネートに起因すると考えられる有害事象にて治療を中止した(糸球体腎炎の既往を有する症例が腎不全を発症1例、持続する低カルシウム血症1例)。なお、プラセボ群の1例で高カルシウム血症により治療を中止した。
 また、ホルモン療法併用下の症例を対象としたパミドロネート(182例)とプラセボ(189例)を24コース投与した比較試験(J Clin Oncol 17:846, 1999)では、有害事象、および死亡のために治療を中止した割合は、それぞれ、パミドロネート群20%、および19%で、またプラセボ群では、16%、および11%であった。この試験ではパミドロネート群でプラセボ群より少なくとも10%以上高い頻度で認められた有害事象は嘔吐と倦怠感であり、また注射部位の皮膚反応がパミドロネート群で多く認められた(6% vs 0.5%)。さらに、パミドロネート群で重篤な有害事象が2例に認められた(初回治療より数日して発症した間質性肺炎1例、左眼に認められたアレルギー反応1例)。
 骨転移を有する乳癌に対して、パミドロネート 1回30mg 2週間隔投与(14例)、1回60mg 4週間隔投与(17例)、1回60mg 2週間隔投与(14例)、および1回90mg 4週間隔投与(15例)を12週間投与した用量検討試験で最も多く認められた有害事象は、発熱(11.5%)、骨痛(9.8%)、および筋肉痛(6.6%)であった(Cancer 74:2949, 1994)。パミドロネート投与後に10例で1
以上の体温上昇、および1例に悪寒を伴う2.5の体温上昇を認めた。発熱、および骨痛と用量に相関は認められなかった。また、この試験治療中に4例が原病の悪化のため死亡し、有害事象による治療の中止例は認められなかった。
 パミドロネートの長期投与の安全性について、化学療法あるいはホルモン療法を受けている悪性腫瘍の骨転移に対してビスフォスフォネート製剤を2年以上投与した22例(疾患は、多発性骨髄腫5例、および乳癌17例、薬剤は、ゾレドロネート4例、およびパミドロネート(1回90mg、4週間隔投与)17例、観察期間平均値3.6年)の検討では、ビスフォスフォネート製剤による治療開始時と平均観察期間が3.5年の時点の白血球数、ヘマトクリット、血小板数、血清カルシウム、および血清リンの平均値に有意な差は認められなかった(J Clin Oncol 19:3434, 2001)。しかし、血清クレアチニン値は、治療前と比較して有意に高かった(0.9 (0.5-1.3) vs 1.1 mg/dL (0.5-2)、p=0.01)。また、ビスフォスフォネート製剤の治療を中止した理由は、ホスピスへの転院3例、死亡あるいは原病の増悪5例、患者の希望2例、不明2例であり、10例は薬剤投与を継続していた。この検討より症例数は少ないが、ビスフォスフォネート製剤の長期投与の認容性は良好であることが示唆される。パミドロネートの投与の継続について、治療中に1、ないし2件の骨合併症を発症した際に投与を中止するのが適切かどうか、現在までのところ不明であり、アメリカ臨床腫瘍学会のガイドラインでは患者の全身状態に応じて投与の継続を検討する方針が示されている(J Clin Oncol 21:4042, 2003)。
 今まで報告された臨床試験の結果より、乳癌の骨転移に対するパミドロネート90mg、4週間隔投与で認められる主な有害事象は、発熱、骨痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、悪心、貧血、血小板減少、腎障害、および低カルシウム血症であり、薬剤投与中の腎機能、血清カルシウム、および末梢血球数の変動に十分に留意すれば、安全性は担保できると考えられる。また、2年を超える長期投与の安全性について、長期投与に起因すると考えられる重篤な有害事象は今まで報告されていないが、腎機能の変動等に十分に注意し、長期投与の安全性についての情報を収集する必要があると考えられる。

7.本剤の投与量の妥当性について

 

 乳癌の溶骨性骨転移に対するパミドロネートの用法・用量について、同一の化学療法あるいはホルモン療法を60日以上継続している症例に対して、1回30mg 2週間隔投与(14例)、1回60mg 4週間隔投与(17例)、1回60mg 2週間隔投与(14例)、および1回90mg 4週間隔投与(15例)を12週間投与した用量検討試験(各用量へは無作為に割付)では、1回90mg、4週間隔投与で治療開始2週より骨痛の軽減効果が認められ、また他の用量群と比べて治療開始12週の時点での骨痛の軽減効果は高かった(Cancer 74:2949, 1994)。
 溶骨性あるいは混合性骨転移を有する乳癌に対して、化学療法/ビスフォスフォネート1回45mg、3週間隔投与(143例)と化学療法単独(152例)の比較試験では、併用群が骨転移の増悪までの期間を有意に延長したが(249 vs 168日、p=0.02)、骨合併症を抑制しなかった(21.7 vs 16.4%、J Clin Oncol 14:2552, 1996)。また、単純レントゲンにて骨転移が認められた乳癌に対して、ビスフォスフォネート1回60mg、3あるいは4週間隔投与(201例)とプラセボ (203例)の比較試験では、ビスフォスフォネート群は治療開始より最初の骨合併症の発症までの期間を有意に延長し(11.8 vs 8.4ヶ月、p=0.0058)、骨合併症を抑制したが(100 vs 140例、p=0.0042)、長管骨や骨盤の骨折(30 vs 31例)、および放射線治療の頻度(54 vs 65例)は抑制されなかった(Anticancer Res 19:3383, 1999)。なお、本試験では化学療法あるいは内分泌療法の併用が行われている。パミドロネートの1回投与量90mg、4週間隔投与はプラセボと比較して椎体以外の骨折の頻度、および放射線治療の頻度を有意に抑制していた(23 vs 38%、p=0.001、および28 vs 45%、p<0.001、J Clin Oncol 16:2038, 1998)。
 今まで行われた試験結果より、乳癌の骨転移に対するパミドロネートは、用量依存性に骨痛の軽減効果の向上が認められたこと、1回投与量90mg、4週間隔投与はプラセボと比較して、骨合併症の発症までの期間を延長や骨合併症を抑制するだけでなく、椎体以外の骨折頻度や放射線治療の必要性を抑制する効果が認められていること、および1回投与量が45、および60mgと比べて明らかな有害事象の増強は認められないため、現時点では乳癌の骨転移に対するパミドロネート1回90mg、4週間隔投与の用法・用量は妥当であると考えられる。

 

抗がん剤報告書:イホスファミド(骨・軟部腫瘍)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名

悪性骨・軟部腫瘍に対するイホスファミドを用いた化学療法

未承認効能・
効果を含む医薬品名

イホスファミド(併用薬)
ドキソルビシン

未承認用法・
用量を含む医薬品名

イホスファミドの用法・用量は現在承認されている用法・用量と同じである。

予定効能・効果

(下線部今回申請時追加)
肺小細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、骨肉腫、骨肉腫以外の悪性骨・軟部腫瘍

予定用法・用量

通常、成人にはイホスファミドとして1日1.5〜3g/m2(30〜60mg/kg)を3〜5日間連日点滴静注又は静脈内に注射するのを1コースとし(4.5g/m2〜15g/m2)、末梢白血球の回復を待って3〜4週間ごとに反復投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

併用療法
イホスファミド・ドキソルビシン併用療法
 イホスファミド2g/m2点滴静注5日間(10g/m2
 ドキソルビシン20mg/m2点滴静注3日間(60mg/m2
 なお、1患者に対するドキソルビシンの総投与量は500mg/m2を越えないようにする。

2.公知の取扱いについて

(1)        無作為化比較試験等の公表論文

1   Edmonson JH, Ryan LM, Blum RH, et al. Randomized comparison of doxorubicin alone versus ifosfamide plus doxorubicin or mitomycin, doxorubicin, and cisplatin against advanced soft tissue sarcomas. J Clin Oncol 11: 1269-1275, 1993.

2   Antman K, Crowley J, Balcerzak SP, et al. An intergroup phase III randomized study of doxorubicin and dacarbazine with or without ifosfamide and mesna in advanced soft tissue and bone sarcomas. J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993.

3   Frustaci S, Gherlinzoni F, De Paoli A, et al. Adjuvant chemotherapy for adult soft tissue sarcomas of the extremities and girdles: Results of the Italian randomized cooperative trial. J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001.

4   Marti C, Kroner T, Remagen W, et al. High dose ifosfamide in advanced osteosarcoma. Cancer Treat Rep 69: 115-117, 1985.

5   Fuchs N, Bielack SS, Epler D, et al. Long-term results of the co-operative German-Austrian-Swiss osteosarcoma study groups protocol COSS-86 of intensive multidrug chemotherapy and surgery for osteosarcoma of the limbs. Ann Oncol 9: 893-899, 1998.

6   Goorin AM, Harris MB, Bernstein M, et al. Phase II/III trial of etoposide and high-dose ifosfamide in newly diagnosed metastatic osteosarcoma: a pediatric oncology group trial. J Clin Oncol 15: 426-433, 2002

7   Jaffe N, Pearson M, Ashok R, et al. Efficacy of high dose ifosfamide and etoposide in recurrent inoperable metastatic osteosarcoma. Proceedings of ASCO 22: 800, 2003.

8   Miser JS, Kinsella TJ, Triche TJ, et al. Ifosfamide with mesna uroprotection and etoposide: An effective regimen in the treatment of recurrent sarcomas and other tumors of children and young adults. J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987.

9   Grier HE, Krailo MD, Tarbell NJ, et al. Addition of ifosfamide and etoposide to standard chemotherapy for Ewings sarcoma and primitive neuroectodermal tumor of bone. N Engl J Med 348: 694-701, 2003.

 

(2)        教科書

1   Souhami RL, Tannock I, Hohenberger P, Horiot JC ed. Oxford Textbook of Oncology 2nd ed. OXFORD University Press p2511-2516, p2560-2561

 

(3)        peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス

1   Casali P, Pastorino U, Azzarelli A, et al. Perspectives on anthracyclines plus ifosfamide in advanced soft tissue sarcomas. Cancer Chemother Pharmacol 31 (Suppl 2): S228-S232, 1993.

2   Demetri GD, Elias AD. Results of single-agent and combination chemotherapy for advanced soft tissue sarcomas. Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 765-785, 1995.

3   Keohan ML and Taub RN. Chemotherapy for advanced sarcoma: Therapeutic decisions and modalities. Semin Oncol 24: 572-579, 1997.

4   Bramwell VHC. The role of chemotherapy in the management of non-metastatic operable extremity osteosarcoma. Semin Oncol 24: 561-571, 1997.

5   Himelstein BP. Osteosarcoma and other bone cancers. Current Opinion in Oncology 10: 326-333, 1998.

 

(4)        学会又は組織・機構の診療ガイドライン

1   米国がん研究所(National Cancer Institute) PDQ Treatment Health Professionals. http://cancer.gov/cancerinfo/pdq/
Adult soft tissue sarcoma, Osteosarcoma/Malignant fibrous histiocytoma of bone,
Ewings family of tumors

 

(5)        総評
 以上の根拠からみて、悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の有効性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。

 

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料

 現在までに公表された海外における臨床試験の結果によると、進行悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤単独の奏効率は7%から38%(中間値26%)と報告されている。以下の文献は、海外において実施された多数の質の高い臨床試験から代表的であると判断して選択したものである。

A) Response to ifosfamide and mesna: 124 previously treated patients with metastatic or unresectable sarcoma 「既治療の転移性あるいは切除不能肉腫124例のイホスファミドに対する反応性」(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989)
 悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の有用性を検討するために、ドキソルビシンを中心とする既存の化学療法抵抗性となった悪性骨・軟部腫瘍124例(悪性軟部腫瘍95例、悪性骨腫瘍29例)に対する第II相試験を行なった。本剤は1回2,000mg/m2 x 4日間(8g/m2)投与し、21日毎に繰り返した。奏効率は21%(CR 4例、PR 22例)で、無増悪生存期間中央値は5ヵ月、生存期間中央値は7ヵ月であった。投与法別の奏効率は分割投与(64例)26%、連続投与(60例)9%で、両群間に有意差を認めた(p=0.03)。また、組織学的悪性度により奏効率に差が見られた(グレード3:23%、グレード1,2:6%)。
 副作用として不穏、失見当識などの神経症状が19%に生じ、これは治療開始時のperformance status(p<0.01)、血清クレアチニン値(p<0.01)と相関を示した。血尿などの泌尿器毒性はメスナの投与により予防された。用量規定因子は骨髄毒性でありWBC 1,000/ul以下の白血球減少が49%に認められた。本研究により、治療抵抗性の悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤が有効であることが示された。

 B) An intergroup phase III randomized study of doxorubicin and dacarbazine with or without ifosfamide and mesna in advanced soft tissue and bone sarcomas 「進行骨軟部肉腫に対するドキソルビシン/ダカルバジン療法とドキソルビシン/ダカルバジン/イホスファミド療法の第III相比較試験」(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993)
 転移性あるいは手術不能な進行悪性骨・軟部腫瘍(未治療例)に対して、米国のSouthwest Oncology Group(SWOG)は、ドキソルビシン(60mg/m2)とダカルバジン(1,000mg/m2)あるいはドキソルビシン(60mg/m2)、ダカルバジン(1,000mg/m2)と本剤(7,500mg/m2)の併用療法による第III相無作為化比較試験を行なった。本剤投与群は出血性膀胱炎予防のためメスナ(10,000mg/m2)を同時に使用した。各コースは21日毎に繰り返された。対象患者の年齢は18〜85才(中央値52才)であった。
 ドキソルビシン/ダカルバジン群(170例)とドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群(170例)の奏効率は各々17%と32%で、本剤併用群の方が有意(p<0.002)に奏効率が高かった。無増悪期間は各々4ヵ月と6ヵ月で、両群間に有意差を認めた(p<0.02)。一方、骨髄抑制、悪心・嘔吐などの重篤な副作用はドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群で、より高頻度に認められ、84例目以後の同群においては本剤の投与量が7,500mg/m2から6,000mg/m2に減量された。生存期間中央値はドキソルビシン/ダカルバジン群13ヵ月、ドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群12ヵ月で、単変量解析では、特に50才以上の高齢者でドキソルビシン/ダカルバジン群の方が予後良好な傾向が認められたが、多変量解析では両群間に差は認められなかった。
 悪性骨・軟部腫瘍の化学療法における他の2つの大規模な無作為化比較試験の結果についての総括:European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC)は、ドキソルビシン療法とドキソルビシン/本剤療法とCYVADIC(シクロフォスファミド/ビンクリスチン/ドキソルビシン/ダカルバジン)療法の第III相無作為化比較試験を行い、ドキソルビシン単独に比べて後2者の併用療法において、有意差はないもののより高い奏効率と生存期間を認めた(Proc Am Soc Clin Oncol 9: 309, 1990)。米国のEastern Cooperative Oncology Group (ECOG)は、ドキソルビシン療法とドキソルビシン/本剤療法の第III相無作為化比較試験を行い、後者において有意に高い奏効率(20% vs. 34%, p<0.03)と、より長期の生存期間(生存期間中央値9ヵ月 vs.12ヶ月)を認めた(Proc Am Soc Clin Oncol 11: 413, 1992)。

C) Adjuvant chemotherapy for adult soft tissue sarcomas of the extremities and girdles: Results of the Italian randomized cooperative trial 「四肢発生成人軟部肉腫に対する補助化学療法:イタリアにおける多施設共同無作為化比較試験の結果」(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)
 104例の高悪性度成人軟部腫瘍に対して、局所根治術後の補助化学療法の有効性を検証するための第III相無作為化比較試験が行なわれた。51例がコントロール群(化学療法なし)、53例が化学療法群(エピルビシン/本剤療法)に割り振られた。エピルビシン/本剤療法はエピルビシン(1回投与量60mg/m2 x 2日間:120mg/m2)と本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)投与を3週毎に5回繰り返すものとした。無病生存期間中央値はコントロール群16ヵ月、化学療法群48ヵ月(p=0.04)、生存期間中央値はコントロール群46ヵ月、化学療法群75ヵ月(p=0.03)であり、共にエピルビシン/本剤療法を施行した化学療法群の方が有意に良好な生存率を示した。化学療法による生存率の改善効果は2年で13%、4年で19%(p=0.04)であった。

D) Long-term results of the co-operative German-Austrian-Swiss osteosarcoma study group
s protocol COSS-86 of intensive multidrug chemotherapy and surgery for osteosarcoma of the limbs「四肢発生骨肉腫に対する多剤併用化学療法と手術的治療(ドイツ-オーストリア-スイス多施設共同グループ研究COSS-86)の長期成績」(Ann Oncol 9: 893-899, 1998)
 診断時遠隔転移の無い40才以下の骨肉腫症例171例がCOSS-86共同研究に登録された。171例は診断時の臨床病理学的パラメータにより、これまでの研究から予後良好なことが示されているlow-risk群(41例)と、予後不良なことが想定されるhigh-risk群(128例)に層別化された。Low-risk群に対してはドキソルビシン(90mg/m2,計4回)、メソトレキセート(12g/m2,計12回)、シスプラチン(120mg/m2, 計4回)の3薬剤による術前後の化学療法を施行。High-risk群に対してはドキソルビシン(90mg/m2,計5回)、メソトレキセート(12g/m2,計14回)、シスプラチン(120mg/m2, 計5回)に本剤(6g/m2,計5回)を加えた4薬剤による術前後の化学療法を行なった。全171例の10年生存率(無病生存率)は72%(66%)であった。Low-risk群、High-risk群の10年生存率(無病生存率)は各々75%(66%)、72%(67%)であった。本研究は、骨肉腫に対する補助化学療法に本剤を組み込んだ初の臨床試験の長期成績の結果である。骨肉腫high-risk群に対しても局所根治術に加えて本剤を含む多剤併用補助化学療法を施行することによって約3分の2の症例で長期無病生存が可能であることが示された。

E) Phase II/III trial of etoposide and high-dose ifosfamide in newly diagnosed metastatic osteosarcoma: a pediatric oncology group trial 「初診時転移を有する骨肉腫に対するエトポシドと大量イホスファミドの第II/III相試験」(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)
 初診時既に遠隔転移を有する骨肉腫に対して、米国のPediatric Oncology Group (POG)はエトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)と本剤(1回投与量3,500mg/m2 x 5日間:17.5g/m2)併用療法の第II/III相試験を行った。G-CSF投与を第6日目から好中球数が5,000/uLを超えるまで併用した。この化学療法を3週間隔で2回施行、画像評価の後、原発巣の手術を行い、病理学的評価を行なった。術後は本療法にメソトレキセート、ドキソルビシン、シスプラチンを加えた多剤併用化学療法を8ヵ月間行なった。
 評価可能39例中、4例(10%)がCR、19例(49%)がPRで、奏効率は59%(骨転移例80%)であった。組織学的奏効率(90%以上の腫瘍壊死をみとめるもの)は65%。全症例の2年無増悪生存率は43%、2年生存率は55%であった。Grade 4の好中球減少が83%、血小板減少が29%に認められ、10例(24%)で敗血症を生じた。Fanconi症候群を5例で認め、治療関連死が2例で生じた。エトポシド/本剤併用療法は高度の骨髄抑制を示す毒性の強い治療法であるが、従来の治療法ではその殆どが2年以内に死亡し予後不良であった骨肉腫遠隔転移例に対して高い治療効果を示す治療法であることが示された。

F) Addition of ifosfamide and etoposide to standard chemotherapy for Ewing
s sarcoma and primitive neuroectodermal tumor of bone「ユーイング肉腫/未分化神経外胚葉性肉腫に対する標準化学療法へのイホスファミドとエトポシドの追加」(N Engl J Med 348: 694-701, 2003)
 ユーイング肉腫/未分化神経外胚葉肉腫に対して米国のChildren
s Cancer Group (CCG)とPediatric Oncology Group (POG)は、従来の標準的化学療法(ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロフォスファミド、ダクチノマイシン)(コントロール群)と、この4剤と本剤(1回投与量1,800 mg/m2 x 5日間:9g/m2)、エトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)を交互に投与する化学療法(スタディ群)の第III相無作為化比較試験を行なった。518例が登録され、化学療法は両群とも3週毎に17回施行(予定治療期間49週)された。
 治療開始時に転移を有する症例(120例)の5年無病生存率、5年生存率はそれぞれコントロール群(62例)22%、34%、スタディ群(58例)22%、35%で両群間に差を認めなかった。一方、治療開始時に転移のない症例(398例)の5年無病生存率、5年生存率はそれぞれコントロール群(200例)54%、61%、スタディ群(198例)69%、72%で、スタディ群が有意に予後良好であった(p<0.01)。従来の4薬剤に本剤とエトポシドを加えた化学療法は、治療開始時転移を有さないユーイング肉腫/未分化神経外胚葉肉腫の予後を有意に向上させることが明らかとなった。

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について

 代表的な悪性骨腫瘍である骨肉腫、ユーイング肉腫と、悪性軟部腫瘍に分けて述べる。
(i) 骨肉腫
 現在、骨肉腫に対して単剤で20%以上の奏効率が報告されている抗がん剤はメソトレキセート(超大量メソトレキセート療法)、ドキソルビシン、シスプラチンと本剤の4剤に過ぎない。歴史的には1980年代より、まずメソトレキセート、ドキソルビシンをもちいた補助化学療法が骨肉腫の治療に導入され、化学療法なしの時代の5年生存率20%台から5年生存率60%台へ治療成績の飛躍的な改善をみた(Cancer 35: 936-945, 1975)。次いでシスプラチンが導入され、治療成績は更に向上した(Cancer 49: 1221-1230, 1982, J Clin Oncol 10: 5-15, 1992)。1985年、再発骨肉腫に対する本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)の高い奏効率(33%)が報告された(Cancer Treat Rep 69: 115-117, 1985)。以後、術前化学療法の組織学的壊死率の低い症例など、従来のメソトレキセート、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤のみによる化学療法では予後の不良であった治療抵抗例を対象に、本剤を加えた4剤による補助化学療法が試みられ、このような治療抵抗症例においても本剤の併用により70%前後の良好な5年生存率が得られることが示された(Ann Oncol 9: 893-899, 1998)。また、エトポシドと本剤の併用療法は、初診時既に遠隔転移を有する骨肉腫に対しても高い有効性を示すことが報告された(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。このように、本剤は現在、骨肉腫の化学療法において他の3薬剤とともに中心的な役割を担う薬剤と考えられている。

(ii) ユーイング肉腫
 ユーイング肉腫に対する化学療法としてはドキソルビシン、VACレジメン(ビンクリスチン、アクチノマイシン、シクロフォスファミド)などが広く用いられてきたが、体幹発生例、再発例など、化学療法施行にもかかわらず予後不良な症例も多く存在した。1987年、これら化学療法抵抗性のユーイング肉腫に対して、本剤(1回投与量1,800 mg/m2 x 5日間:9g/m2)とエトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)の併用療法が高い奏効率(94%)を示すことが報告された(J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987)。この報告の後、米国で大規模な第III相無作為化比較試験が行なわれ、従来の4薬剤に本剤とエトポシドを加えた化学療法の施行によって、治療開始時転移を有さないユーイング肉腫の予後は有意(p<0.01)に向上することが明らかとなった(N Engl J Med 348: 694-701, 2003)。現在米国では、ドキソルビシン、ビンクリスチンなど従来の薬剤にエトポシドと本剤を加えた補助化学療法を約1年間行なうのがユーイング肉腫に対する標準的治療法と考えられている。

(iii) 悪性軟部腫瘍
 ユーイング肉腫などの小円形細胞型肉腫を除く成人型悪性軟部腫瘍に対して、現在までに単剤で20%以上の奏効率が認められている薬剤はドキソルビシンと本剤の2薬剤のみである。進行成人型悪性軟部腫瘍に対する第II相試験の結果、ドキソルビシン(356例)と本剤(300例)は共に26%の奏効率を示すことが報告されている(Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 765-785, 1995)。他の薬剤の奏効率は、ダカルバジン16%、シスプラチン12%、メソトレキセート(大量メソトレキセート療法)13%、エトポシド8%などであり、いずれもドキソルビシンと本剤の奏効率よりも劣る(Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 765-785, 1995)。組織型別では、悪性軟部腫瘍の中でも本剤は特に滑膜肉腫に対して高い奏効率を示すことが報告されている(Cancer 73: 2506-2511, 1994)。
 併用療法としては、この2薬剤を中心に様々なレジメンで研究が行なわれてきた。米国のEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)は、ドキソルビシン単剤(80mg/m2)と、ドキソルビシン(60mg/m2)と本剤(7.5g/m2)の併用療法の奏効率は各々20%、34%であり、ドキソルビシンと本剤併用のほうが有意(p=0.03)に高い抗腫瘍効果を示したと報告している(J Clin Oncol 11: 1269-1275, 1993)。一方、European Organization for the Research and Treatment of Cancer (EORTC)による663例を対象とした第III相無作為化比較試験では、ドキソルビシン単独群(75mg/m2)とドキソルビシン(50mg/m2)と本剤(5g/m2)の併用療法群の奏効率は各々23%、28%であり、両群間で奏効率、生存率に有意差は認められなかったと結論された(J Clin Oncol 13: 1537-1545, 1995)。米国のSouthwest Oncology Group(SWOG)は、ドキソルビシン(60mg/m2)とダカルバジン(1,000mg/m2)あるいはドキソルビシン(60mg/m2)、ダカルバジン(1,000mg/m2)と本剤(7.5g/m2)の併用療法による第III相無作為化比較試験を行ない、ドキソルビシン/ダカルバジン群とドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群の奏効率、無増悪期間は各々17%(4ヵ月)と32%(6ヵ月)で、本剤併用群の方が有意(p<0.002)に奏効率が高く、無増悪期間も長かった(p<0.02)と報告している。生存期間に有意差は認められなかった(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993)。
 これらの併用療法の多くにおいて、期待されたほど奏効率の向上が得られていない大きな理由は、副作用(主に骨髄抑制)の重積のため各薬剤の投与量が制限され、各々の薬剤の至適投与量が投与されていない点にあると考えられた。そのため、G-CSF, GM-CSFなどの細胞増殖因子(Ann Oncol 9: 917-919, 1998, Am J Clin Oncol 21: 317-321, 1998)や末梢血幹細胞移植(Cancer 80: 1221-1227, 1997)の併用によって各薬剤のdose intensityを高め、より高い治療効果を得る試みが行なわれている。
 一方、非進行例を対象とした補助化学療法としては、悪性軟部腫瘍に対してドキソルビシンを含むレジメンによる術後補助化学療法が行なわれた14試験1568例を集めたメタアナリシスの結果、これらの化学療法は、局所再発、遠隔転移の出現時期を遅らせ、四肢発生例においては生存率を有意に向上させることが示された(Lancet 350: 1647-1654, 1997)。1990年代にイタリアで行なわれた第III相無作為化比較試験では、四肢発生高悪性度成人型軟部腫瘍に対して、局所根治手術後、エピルビシン(1回投与量60mg/m2 x 2日間:120mg/m2)と本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)を3週毎に5回投与する補助化学療法によって、生存率は化学療法なしのものに比べて有意(p=0.04)に改善されることが明らかにされた(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)。
 このように、本剤は悪性軟部腫瘍に対するキードラッグとして、進行例あるいは術後補助化学療法に用いられ、その有効性が確認されている。
 以上、述べたように、本剤は悪性骨・軟部腫瘍の化学療法において、現時点でもっとも高い治療効果を示す薬剤の一つであり、単剤あるいは他の抗がん剤と併用で悪性骨・軟部腫瘍進行例ないし補助化学療法に用いられる。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等

 1990年代半ば、我が国においても本剤の特徴的副作用である出血性膀胱炎の治療薬メスナが使用可能になると、悪性骨・軟部腫瘍進行例あるいは骨肉腫などに対する補助化学療法として本剤は広く使用されるようになった。ちなみに2004年4月現在、医学中央雑誌刊行会のWebサイトで骨肉腫と本剤をキーワードに文献検索を行なうと56件、軟部肉腫と本剤をキーワードに文献検索を行なうと134件の公表論文が抽出される。いくつかの題名を以下に列記する。

        軟部肉腫のifosfamide, adriamycin併用療法 整形外科49: 1333-1337, 1998

        高悪性度成人型軟部肉腫に対する化学療法 整形外科50: 711-715, 1999

        骨肉腫患者の予後に対するメソトレキセート、ドキソルビシン及びifosfamideの用量の影響 Int J Clin Oncol 4: 36-40, 1999

        Ifosfamideを取り入れたプロトコールによる骨肉腫の治療成績 小児がん 37: 197-202,2000

        骨肉腫補助化学療法における多剤併用療法の役割 整形・災害外科43: 1067-1073, 2000

        高悪性度成人型軟部腫瘍に対するmesna, adriamycin, ifosfamide, dacarbazine (MAID)療法 整形外科 51: 509-513, 2000

        高悪性度軟部肉腫に対する化学療法CYVADACTとMAI(ifosfamide-adriamycin併用療法)の検討 整形外科 52: 1361-1364, 2001

        悪性骨,軟部腫瘍の化学療法 化学療法の領域19: 209-215, 2003

        非小円形細胞型軟部肉腫に対する化学療法 日整会誌77: 115-119, 2003

        Ifosfamide, Doxorubicin and Cyclophosfamide Chemotherapy for Advanced Adult Soft Tissue Sarcoma: a Japanese Musculoskeletal Oncology Group Study. Proceedings Am Soc Clin Oncol 22, 825, 2003



 以上より、骨軟部肉腫に対して本剤は既に国内において使用経験があると考えられる。

6.本剤の安全性に関する評価

 悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤を前述の推奨用法・用量(4.5g/m2〜15g/m2、3週間隔投与)で用いた際の主な有害事象は、食欲不振、悪心・嘔吐等の消化器系障害、白血球減少、出血性膀胱炎、排尿障害等の泌尿器系障害である。
 本剤の代謝産物であるacroleinなどによって引き起こされる出血性膀胱炎は、メスナ(sodium-2-mercapto-ethanesulfonate)の投与によって抑制可能であり、顕微鏡的/肉眼的血尿あるいは頻尿などの膀胱刺激症状が出現した場合にも、メスナの追加投与、尿のアルカリ化、利尿の確保により症状の改善が得られる。本剤に対するメスナ投与量の割合(w/w)は、60%(J Clin Oncol 11: 1269-1275, 1993, J Clin Oncol 15:2378-2384, 1997, J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)から、100%(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)、133%(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993)、160%(J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987)、175%(Ann Oncol 9: 917-919, 1998)まで様々報告されている。メスナが本剤投与に起因する出血性膀胱炎の特異的予防薬であること、メスナの投与によって本剤の抗腫瘍効果は減弱しないこと、メスナ自身に起因した重大な有害事象が報告されていないこと等を考慮すると、本剤投与時併用するメスナの推奨用量は、本剤と等量(100%)前後が適当と考えられる。
 メスナによる出血性膀胱炎の予防が行なわれた場合の本剤の古典的な用量規定因子は骨髄抑制である。不穏、幻覚、錐体外路症状などの中枢神経障害や、代謝性アシドーシス、血清クレアチニン値の上昇、ファンコニー症候群などの腎障害が5%〜10%の症例でみられることがある。通常これらの非血液毒性は薬剤の投与中止後1〜5日で軽快するが、腎障害は遷延する傾向がある。
 本剤による腎障害発生の危険因子として、(1)本剤の総投与量(50〜100g/m2以上)(J Clin Oncol 11: 173-190, 1993, Lancet 348: 578-580, 1996, Br J Cancer 82: 1636-1645, 2000)、(2)シスプラチンの併用またはその既往(J Clin Oncol 9: 1495-1499, 1991, J Clin Oncol 11: 173-190, 1993)、(3)低年齢(小児)(Curr Opin Pediatr 7: 208-213, 1995)、(4)腎摘出例(Curr Opin Pediatr 7: 208-213, 1995)などが報告されている。しかし、本剤による腎障害発生の機序については未だ不明な点も多く、その発生を正確に予測することも困難である。本剤の投与に際しては、クレアチニンクリアランスなどの検査値に注意するとともに、これら危険因子を有する患者に対しては特に注意してこれを行なう必要がある(Med Pediatr Oncol 41: 190-197, 2003)。
 本剤により稀に発生する中枢神経障害の程度は、不眠から意識障害、昏睡に至るまで様々である。治療開始時のperformance status、先行するシスプラチン投与などによる腎障害の存在が、これら非血液毒性の発生と関連する可能性が指摘されている(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989, Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 767-768, 1995)。
 悪性骨・軟部腫瘍患者40人(年齢22〜71歳、中央値46歳、男:女=19:21)に対して本剤を12g/m2投与(4g/m2 x 3日間連続投与)(計147回)した際に認められた有害事象は、グレード3,4の好中球減少76%、グレード3,4の血小板減少10%、グレード3,4の貧血11%、好中球減少を伴う発熱8%、急性腎不全3%、ファンコニー症候群15%、低カリウム血症22%、代謝性アシドーシス39%、蛋白尿14%、糖尿13%、血尿19%、尿細管障害13%、グレード3の意識障害6%、グレード2の悪心・嘔吐29%であった。投与規制因子は好中球減少であった。中枢神経障害は、急性腎不全の発症、血小板減少、好中球減少を伴う発熱を生じた症例でより多く認められた。後腹膜腫瘍を有する症例は有意に慢性腎不全を生じる危険が高かった(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)。
 四肢発生悪性軟部腫瘍患者53人(年齢18〜65歳、男:女=33:20)に対して局所根治術後の補助化学療法として行われたエピルビシン120mg/m2と本剤9g/m2(1.8g/m2 x 5日間)の併用療法では、グレード3,4の好中球減少が58%、グレード3,4の血小板減少が11%、グレード3,4の貧血が20%で認められ、24%の症例で輸血が必要であった(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)。骨肉腫遠隔転移患者41人(年齢7〜22歳)に対してエトポシド500mg/m2と本剤17.5g/m2(3.5g/m2 x5日間)の併用療法を3週間隔で2回繰り返した際に認められた有害事象は、グレード3,4の好中球減少85%、グレード3,4の血小板減少44%、グレード3,4の貧血10%、敗血症10%、ファンコニー症候群7%、血尿2%、悪心・嘔吐4%であり、2例が化学療法による副作用のため死亡した(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。
 以上、述べたように、本剤の投与により様々なレベルの血液及び非血液毒性が認められる。今回申請する本剤の用法・用量は、現在、国内で承認されている用法・用量「通常、成人にはイホスファミドとして1日1.5〜3g/m2(30〜60mg/kg)を3〜5日間連日点滴静注又は静脈内に注射するのを1コースとし(4.5g/m2〜15g/m2)、末梢白血球の回復を待って3〜4週間ごとに反復投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。」と同じである。
 悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤を投与した文献の検討からは、骨軟部腫瘍で特異的に発現する本剤由来の有害事象はないと考えられるが、本剤投与量の増加、併用薬剤(ドキソルビシン)の使用、シスプラチンなどによる抗がん治療歴等により、有害事象の頻度、重症度は高くなることが予想される。G-CSFなどによる支持療法を行なうことが一般的であるが、そのような対処を行なっても危険が回避できないケースもあるため、専門家による慎重な観察が必要と考えられる。本剤の使用に際しては、化学療法に熟知した医師がこれら有害事象に十分に注意し、必要な対応が可能な施設でこれを行なうことが重要である。

7.本剤の投与量の妥当性について

 悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の用法・用量については、現在までに多くの研究が行なわれてきた。
(i) 本剤単独投与
 EORTCは悪性軟部腫瘍135例における第II相無作為化比較試験を行い、本剤5g/m2の24時間持続投与を3週間毎に繰り返す化学療法(奏効率18%)は同じアルキル化剤であるシクロフォスファミド1.5g/m2を同一スケジュールで投与する化学療法(奏効率8%)に比べて、より高い抗腫瘍効果を示すことを報告した(Eur J Cancer Clin Oncol 23: 311-321, 1987)。Antmanらは、既存の化学療法抵抗性の悪性骨・軟部腫瘍124例(悪性軟部腫瘍95例、悪性骨腫瘍29例)に対する第II相試験において、本剤2,000mg/m2 x 4日間(8g/m2)の3週間間隔の投与によって、21%の奏効率を報告した(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989)。また、この報告の中では、本剤の投与は連日4時間毎の分割投与(奏効率26%)の方が連日24時間持続投与(奏効率9%)より有意に奏効率が高いことが記載されている。
 本剤の悪性骨・軟部腫瘍に対する抗腫瘍効果には用量-効果相関が認められることが知られている(J Clin Oncol 8: 170-178, 1990, Cancer Chemother Pharmacol 31: S174-179, 1993, Semin Oncol 23: 22-26, 1996)。Le Cesneらは、ドキソルビシンを中心とする化学療法に抵抗性となった成人型悪性軟部腫瘍40例(28例は通常量の本剤(5〜10g/m2)による化学療法も既施行)に対して、本剤4g/m2 x 3日間(12g/m2)を4週間隔で投与する化学療法を行い、33%でPR以上の効果、22%で病状の進行の停止が得られたと報告した(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)。MDアンダーソン癌センターのShreyaskumarらは、化学療法歴のある悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤14g/m2投与(3週間隔)の成績を報告している(J Clin Oncol 15: 2378-2384, 1997)。それによると、本剤14g/m2の74時間連続投与では奏効率29%(悪性骨腫瘍40%、悪性軟部腫瘍19%)、2g/m2の本剤を2時間で投与し、12時間おきに7回繰り返す(計14g/m2)間歇投与では奏効率57%(悪性軟部腫瘍45%)の成績が得られており、通常量の本剤(5〜10g/m2)では治療効果が得られなかった悪性骨・軟部腫瘍症例に対しても本剤の大量(12g/m2以上)投与によって治療抵抗性の克服が可能であることが示唆されている。
(ii) 併用療法
 本剤を悪性骨・軟部腫瘍に対するもう一つのキードラッグであるドキソルビシンと併用する化学療法では、ドキソルビシン40〜75mg/m2と本剤5〜10g/m2を併用するレジメンが多く、30〜50%台の奏効率が得られている(Eur J Cancer 26: 558-561, 1990, J Clin Oncol 11: 15-21, 1993, J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993, J Chemother 8: 224-228, 1996)。G-CSFなど細胞増殖因子の積極的な使用によって両薬剤のdose intensityをさらに高め、より高い治療効果を得る試みも報告されており(Ann Oncol 9: 917-919, 1998, Am J Clin Oncol 21: 317-321, 1998)、現在、両薬剤の最大併用可能用量はドキソルビシン90mg/m2と本剤10〜12.5g/m2と考えられている(Souhami RL, ed. Oxford Textbook of Oncology 2nd ed. p2516)。一方、米国のPOGは、若年者の骨肉腫遠隔転移例に対するエトポシド(500mg/m2)と本剤(17.5g/m2)併用療法の第II/III相試験を行い、奏効率59%(CR 10%, PR 49%)、2年生存率55%のきわめて優れた成績を得ている。しかし、骨髄抑制、腎毒性などの有害事象の発生も高い頻度で認めており、同レジメンは非常に毒性が強い治療法であることも事実である(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。
 以上、悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の使用においては、用量-効果相関を認めるその抗腫瘍効果と、投与量増大に比例して発生する有害事象を、有効性と安全性のバランスからみてどのように勘案し、どの用量を選択するかという判断が求められる。上記の多くの臨床研究では、通常の単独投与として本剤5〜10g/m2、大量投与として12g/m2ないし14g/m2が用いられており、これらの投与量が最もエビデンスの豊富な本剤単独投与時の推奨用法・用量と考えられる。一方、ドキソルビシンとの併用療法においては、ドキソルビシン40〜75mg/m2と本剤5〜10g/m2の併用が最もエビデンスが豊富な推奨用法・用量である。若年者の骨肉腫遠隔転移例など、致死的経過が予想される症例においては、G-CSF等の支持療法の下に併用両薬剤の用量増加を行なうことも報告されているが、重篤な有害事象の発生に十分注意する必要がある。

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